教育天声人語
「業務の外注化」―それでいいの?


  田中邦衛が亡くなった。青大将時代の田中邦衛は知らないが、TV ドラマ「若者たち」
 や「北の国から」はよく観ていた。「北の国から」の黒板五郎はそのまま田中邦衛であっ
 た。役と本人との区別がつかないのである。追悼記事をいくつか読んだが、その中に「北
 の国から」の脚本を書いた倉本聰が北海道新聞に寄せた文があった。「《略》人は己のな
 すべき事まで他人に金を払いそして依頼する。《略》『北の国から』はここから発想した」…
 と。この一文から最近の私学のあり様が気になった。
 ・3 月・4月と言えば、受験生の保護者は志望校の大学合格実績を気にしてHP にアクセ
  スする。が前年の実績のままの学校が結構あった。問い合わせるとHP の管理は業者に
  任せているという。最初のフォーマットの作成はともかく、更新まで外部に依頼して
  いて迅速に対応できない学校は、「熱意が感じられない」として外されないだろうか。
 ・塾回りを外部に委託するところも増えている。塾から学べることも多いのにもったい
  ない。「先生と生徒との交流」など中の先生しか伝えられないものがあるはずだ。
 ・入試そのものに外部に入ってもらうケースも散見される。特殊な入試で学校側にノウ
  ハウがないからなのだが、先生がやれるようになってから実施してはと思う。
  「働き方改革」が言われ出してから業務の外注化が顕著である。私は出版社育ちだが、
 退社する10年前くらいから出版社も仕事を編集プロダクションやフリーライターに委
 託するケースが増えた。その結果どうなったか。編集者の力量が目に見えて落ちたので
 ある。私学教員の世界でも同様な現象が起こるのではないかと気になっている。

「ビジョナリー」2021年5月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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