教育天声人語
「鶏口」か「牛後」か

   いつの時代も保護者がわが子の受験校選びで迷う要素の一つが、「鶏口となるも牛後になるな
 かれ」。実際、「集団の中では牛後になる可能性は、誰にでもざっくり20%はありますよね。卒業
 しても同窓会にも行きたくないのではかわいそうだから、わが家は牛後を意識して学校選びをし
 ました」と言われたことがある。
  私自身はひどい「牛後」だった。が、教養主義の環境の中で先生や友人から得た刺激(価値観、
 世界観、社会への姿勢、読書傾向など)は人生を振り返ったときに、かけがえのないものであっ
 たと感じている。レベルの高い学校にはそれなりに目指す意義はあると思う。日常的にも生徒の
 関心事は学校により大きく異なるはずだ。
  会社時代、全国各地の大学から入社してくる大勢の社員と長年接していて皮膚で感じていたこ
 とがある。大学歴より高校歴のほうが当てになるということだ。高校が学区の一番手校だった連
 中は、たいていが学級委員や部活の部長を経験していて、自分の判断で行動できる者が多かった。
 難関高校、難関大学を経ていても、そうした経験がない社員は上司の指示がないと行動しない。
 自分からは動かないのである。なのでリーダー経験というものは必要だと思う。そういう点では、
 リーダーになれる可能性が高い「鶏口校」のほうがいいといえる。そして何より先生方もお感じに
 なっているように、生徒は自信が付くと飛躍的に伸びる。周りが優秀な生徒ばかりで常に劣等感
 を抱いている環境よりははるかにいいだろう。
  どのような学校を選ぶかはあくまで保護者の判断だが、学校は「文化的影響」と「自信」を与え
 る存在であってほしい。

「ビジョナリー」2019年1月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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