教育天声人語
自分と遠い世界にいる存在に目を向けさせて


  文京区には3S IKと呼ばれる名門公立小学校がある。誠之小、昭和小、千駄木小、窪町小で
 ある。なぜこうしたことを知っているかと言えば、リクルートやダイヤモンドのマンション情
 報誌の取材を何度か受けたことがあるからである。3 S I Kの「通学区域内」にあることは、分
 譲マンションや1 戸建ての販売価格が数段違うという。
  別の本で読んだのであるが、TIMSS(国際数学・理科教育調査)のデータ分析によると、公立
 小でも両親の大卒比率は100%〜0%まである。これらの学校こそ100%に近いのであろう。ま
 た当然、昔からの居住者は別にして、所得が高くなければこの「通学区域内」には住めない。結
 果、これらの学校は、社会経済的地位が高い保護者の下で育った均質な子ばかりになる。
  12月の土曜日、文京シビックセンターで開かれていた「障がい児の作品展」(個人的に「害」の
 字は使いたくない)を覗きに行った。特別支援学級は各小学校に設置されているものと思って
 いたので(以前外部評議員をしていた港区立六本木中にもあった)、学校別の展示の学校数が少
 ないことにまず気が付いた。校名を見ていくと、3S IKは1校もない。名門小には設置してい
 ないのである。特別支援学級の子が視野に入らないで育つ。
  自分もそうだが、自分と同じ世界の人と付き合う方が楽であり、育った環境が異なる人はど
 うしても苦手になる。無意識のうちに交流は同質の人とが多くなり、縁のない、知らない世界
 には無関心になる。企業でも役所でも、社会に出れば同質性はより高くなる。
  世界のあちこちで、人々が「分断」の方向に流れている今、学校にこそ、生徒に自分と遠い世
 界にいる存在に目を向けさせる働きをしてほしいと思う。私立であれば、なおさらそう願いたい。

「ビジョナリー」2020年1月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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