教育天声人語
私学の人事異動は戦国時代に重なる?

  3月はあちこちから校長の交替、先生の異動の情報(噂レベルのものも含めて)が入ってくる。
 そうした中でも、外部からの招聘などダイナミックな動きがあるのは、近年飛躍的に躍進してい
 る学校に目立つ。
  そんなことを思っていたときに偶々、豊島岡女子学園の学園長二木謙一先生の「戦国武将に学
 ぶ究極のマネジメント」(中公新書ラクレ)を読んだ。二木先生は國學院大學名誉教授で、NHK
 大河ドラマの14もの作品の時代考証を担当されていたので、ご存知の方も多いかもしれない。
  本の中に、こんな話があった。信長の場合は、一大名から急成長を遂げて十年足らずのうちに
 天下取りとなった。それゆえ勢力拡大とともに、尾張時代からの譜代家臣の持ち駒だけでは対処
 できなくなっていく。そこで旧来の家門・門閥主義を無視し、有能な者を適材適所に起用すると
 ともに、新規採用者を重要ポストに抜擢した。足利将軍の家臣をスカウトして行政実務を担当さ
 せたり、堺の商人を家臣の如く雇って、彼らを通じて広く国内、国外の情報を得たりしている。
 そうしたことが、新たな発想、エネルギーをもたらし、譜代家臣中心であった他の大名を凌駕す
 ることができた要因の一つであったという。
  学校のことをよくわかっている、気心の知れた仲間とのほうが確かに仕事はやりやすいだろ
 う。が、グローバル化する社会に巣立っていく生徒に、異なる文化的背景を持った人とも協働で
 きる力を付けようとしているのであるから、先生自身が異質な人と協働することに慣れたほうが
 いいのではないだろうか。
  信長の人材登用のしかたは、「私学戦国時代」と言われる現在にもそのまま当てはまるように
 感じた次第である。

「ビジョナリー」2019年4月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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