教育天声人語
モチベーションの作り方

  年明けに、私立中学の『特進コース』に在籍するという男の子の母親から電話があった。相談事
 は受けていないのだが、ある人の紹介だった。クラスでいじめに遭っていて、高校受験で他校を
 受験したいという。
 「今からですか? いくらなんでもそれは無理。併設高校で『普通コース』に進むことがいちば
  そう話したが、本人が「3年間『特進コース』で頑張ってきたのに、今更『普通コース』に行くの
 では頑張ってきた意味がない」と、この案では納得しないという。
  入学者の学力が高くない学校が、パンフレットに掲げた難関大学合格のマニフェストを達成し
 ようとすると、いきおい勉強時間を増やし、難しい教材を使い、進度もかなり速くせざるを得な
 い。その学校では先生の口から、「『特進コース』のきみたちは東大、東工大、一橋大、悪くても
 早慶を目指すのだ。中堅以下の大学に進んだら就職できないぞ」といったことを頻繁に言われて
 いたという。「それらがプレッシャー、ストレスになり、いじめにもつながっている」と母親は言う。
  中堅校が学力の高い生徒に入学してもらおうと思ったら、『特進コース』的なものを設置し、カ
 リキュラムを工夫して大学合格実績で証明するしかないことは仕事柄よくわかる。学校経営の観
 点からは否定はできないと思う。が、この生徒のケースのように、『特進コース』と『普通コース』
 に差別意識を持たせ、難関大学以外は大学ではないような言い方でのモチベーション作りはやは
 りマズイと思う。
  人が今後そうしたレールから外れることはいくらでもあるだろうし、何よりそうした視点で
 人と接していたら、良好な人間関係を築けないと思うのだ。モチベーション作りにはもっと慎重
 であってほしいと思う。

「ビジョナリー」2015年2・3月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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