教育天声人語
「日本人力」を見直そう

  ある合同相談会で、塾の先生、企業の人と私とでパネルディスカッションを行った。メインの
 テーマは『公私比較』であったが、当然話は広がる。
  司会者が塾の先生に、「この地区のトップ校、県立〇〇高校に入るには内申はどのくらい必要
 なのですか?」と、来場者の関心がもっとも高いと思われる質問をする。「そうですね、9科5段
 階評定45点満点で、前期選抜だと42くらいはほしいですね」「えっ、そんなに! うちのは到底
 無理だ!」・・・壇上からも、ご父母のそんな感想が表情から見てとれる。
  企業の人が、『いま企業が求める人材』というテーマで、話をする。その中で自社の採用状況
 の話が出る。5万人がエントリーし、3万人が会社説明会に参加し、8回に及ぶ面接を経て30人を
 採用。1700倍という倍率に、ここでもまた、ため息が漏れる。ご父母に安堵の表情が浮かんだの
 は、企業の人が個人的なエピソードとして、次のような話をしたときだ。
  地方の中堅私大を出た友人がいる。学業に熱心だったわけでもなく、これといった特技もない。
 国内に就職口はなく、仕方なく「ワーキングホリデー」を利用して海外に出た。
  数年して訪ねたところ、明るく元気に働いていただけでなく、現地の会社でマネジメントまで
 している。「おまえ、どうしちゃったの?」と聞くと、
 「約束の時間の5分前には来ている、列に並ぶ、ゴミを拾う・・・・・・といった日本人としては当
 たり前のことをしていただけで、こっちではすごく評価されるんだよね」という返事。
 「グローバル社会のリーダー」「社内の公用語は英語」「TOEIC 800点以上ないと採用されない」
 ・・・・・・そんな話ばかり耳にしていると、親としては、無理と感じてしまう。
  が、『日本人力』なら、わが子でも「なんとかなりそう」に思える。学校説明会でも、高嶺の
 話ばかりでなく、ホッとした空気が流れる話も必要なのではないだろうか。

「ビジョナリー」2012年6月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

(c)安田教育研究所 無断複製、転載を禁ず