教育天声人語
本田圭佑は歩いている

  最近は欠場が続いているが、本田圭佑はサッカーの代表チームにとって欠かせない存在である。
 個人的には、髪の色といい、なんとなくふてぶてしい態度といい、「ビッグマウス(大口を叩く)」
 なところもあるので(実力も実績もある本田の場合はトラッシュ・トークというのが正確なんだ
 そうだが)、なんとなく応援できないでいた。
  大事な試合中、他の選手がみな小走りにフィールドを走り回っているときに、本田だけは歩い
 ていたりする。観ていて興奮してくると、「本田、何してんだ! もっと相手選手を追い回せ!」
 ――TV画面に向かって怒鳴ってしまうことさえある。
  が、走りの専門家によると、本田の小走りしないところ、歩き方がすばらしいのだという。小
 走りをすると、ふくらはぎに負担がかかる。ふくらはぎの筋肉は小さいため消耗しやすい。小走
 りは非効率的なのだそうである。歩き方も、背筋をピンと張った姿勢を保ち、骨盤から始動して
 歩いているから、ムダな消耗をしなくてすんでいるそうである。後半になっても本田がタフなの
 はそうしたところもからきているようである。
  ところが99%の選手は、ここぞという時でないときでもたいてい小走りしている。監督に、サ
  ポーターに、サボっているように思われては大変だからだ。
 
  予備校の先生が言っていた。「浪人する人が少ないので、我々としては現役生を獲得する必要
 があるのですが、どういうわけかターゲットの中堅校の生徒ほど忙しいんですよね」。
  いま学校は、早くから生徒を「小走り」させすぎていないだろうか。いや学校自体が、保護者・
 業界の目を気にして、年中「小走り」してはいないだろうか。
  歩いてもいい時期、猛スピードで走る時期、そんなメリハリをつけた方が、効果が上がるよう
 に思える。

「ビジョナリー」2011年11月号掲載     |もくじ前に戻る次に進む

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