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今年、中学受験の保護者向けに出した本の最初のページに、小さくこのフレーズを入れた。夏
目漱石が一時代も前に言った言葉である。
いま保護者は、わが子が小3、小4のころから学校説明会に足を運ぶ。20 校、30 校と学校を
訪れる保護者も少なくない。それでいながら、いざ受験校を決める段になると、大学合格実績
が良かったところ、1ポイントでも2ポイントでも偏差値が高いところ、マスコミで取り上げ
られたところ……に決めてしまう。「お母さん、いままでご自分で歩いて見てこられた経験はど
こへ行ってしまったんですか」----思わず、そんな嫌味を言いたくなる。
いま社会では、「ミシュランガイド」に掲載されればたちまち予約が殺到し、書店の店頭で先
週の売れ行きトップ10の棚に並べられた本はさらに売れる。山歩きでも「百名山」に登山者が
押しかけ、芸能人でもスポーツ選手でも話題の人物に極端に人気が集中する。
学校選びにおける保護者のメンタリティーはこれら消費者の心理そのものでもある。保護者
も消費者の一人であるわけだから当たり前なのであるが……。
なぜ自分の目で、判断で、選ばないのだろう。自分がいいと思った店、本、山、人……他人が
なんと言おうが、自分がいいと思えばいいではないか。自分の目に自信がないのだろうか。確
かに、大多数に人気がある店、本、山、人を選んでおけば安全かもしれない。学校も安全かも
しれない。
私が気になるのは、もしかしたら自分の中に選ぶ基準となる確たる「ものさし」がないから
ではないかということ。何も持っていなければ学校への共感も生まれず、共振も起こらない。しっ
かりものを見つめ、自分の頭で考え、自分で判断することの大切さ。日常の小さなことから生
徒にそれをさせていかないと、日本人はこれから先もずっと自分で決められないままのような
気がする。
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