教育天声人語
出会う仕事は、新鮮で、楽しい


  5月以降いろいろな学校を訪れていることは前号に書いた。受験の状況、保護者の変化、
 社会のニーズ等の話をしている限りは前年とそれほど大きな違いはない。今年特に
 印象に残った言葉・用語をいくつか取り上げてみたい。
 ・巣鴨の堀内不二夫校長と話をしているときに、「橋本佐内」「顔回(孔子の弟子)」が出
  てきた。半世紀も前に教科書で目にした記憶があるだけの人名。ふつう会話に出てくる
  名前ではないだけに、とっさにアタマをフル回転させた。
 ・今年らしいと言えば、渋谷教育学園渋谷の高際伊都子校長から「ChatGPT,Microsoft
  Bing」。ChatGPTはごくふつうに話に出るだろうと予想していたが、Microsoft Bing
  までは想定外だった。
  上はごく一例だが、校長の関心事と学校の時間軸とは案外比例しているように感じる。
 ・田園調布学園での模試での講演の時、前日に西村弘子学園長からメールが…。「明日、
  別件があり、残念ですが謦咳に接接することができません」「謦咳(けいがい)」という言
  葉自体に接するのも数年ぶりだった。
 ・かえつ有明で、中1のサイエンス科の授業で生徒と『価値観ワーク』をした後、校長室
  に戻ったら、石川百代校長から「良寛さまが子どもと遊んでいるようでした」との感
  想。「良寛!?」そんなにおじいさんに見えるのかと、ショックを受けた。
 ・学習院女子の日本画教室の前の廊下に蛤の殻にきれいな絵が施されているものが陳列
  されていた。平安時代の貴族の遊び『貝合わせ』に今の学校で遭遇するとは驚いた。
   私の仕事はほとんど“ルーチンワーク”というものがない。いろんなことに出会う。それが
  新鮮で、楽しい。視野360度、記憶半世紀以上の総動員を求められる。

「ビジョナリー」2023年8・9月号掲載     |もくじ前に戻る

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